「森の王」の中の王。小樽オーク

 イギリスの友人に北海道のミズナラの美しさを教えてもらってから、ついオークを眺めてしまうことがある。オークを「森の王」と呼び特別な感情を持つ民族にとって、その中で最も良い材が、北海道のオークなのだという。この、目が詰まっていて虎斑が美しい木材は、戦前その出港元となる小樽港の名前から通称「小樽オーク」として珍重され、ヨーロッパに輸出されていた。実際、"OTARU"と書かれた木材を木工所の倉庫で見たことがあると友人は言う。

 現在流通しているオークは主に北米のホワイトオークだが、端正で均質な印象で小樽オークの荒々しい深みは感じられない。最近では、ワインの樽に小樽オークを使用しているということを謳うワイナリーもあり、再評価されてきてもいるが、今となっては北海道に自生しているミズナラはあまりにも希少だ。タイ産のチークやブラジルのローズウッド、キューバのマホガニーと同じく絶滅寸前であるがとくに絶滅危惧種に指定されているわけでもない。

 オークが良材として育つまでには、百年近く、あるいはそれ以上かかることを考えると、今ある「小樽オーク」、そしてその加工された家具を大事に使っていくのは当たり前として、あらたな小樽オークを次の世代のために植えていくことは、夢のある行為に思える。自分が生きている間には、結果が出ないのだから。いい材に育つことは自然が証明している。

 木工は進化している。機械加工の精度も上がっている。職人の手仕事によって素晴らしい作品は今でもつくられている。つくれるかつくれないか、でいうとつくれる。だが、あの時代に湯水の如く使われた良材は手に入らない。1950年代のデンマーク家具は、デザインとクラフトと素材の3つが揃った黄金時代と言われている。百年後、そうした時代が再び来るだろうか。

文・M
2022.12.2

Frits Henningsen ch18A 1960年代と、日本の1930年代の床材。いずれも北海道のミズナラと思われる。