Markuskyrkan マーカス・シルカン

2013年の夏、ストックホルム郊外のビヨルクヘイゲンに建つマーカス・シルカン(聖マルコ教会)を訪れた。マーカス教会はスウェーデンを代表する近代の建築家、シーグルド・レベレンツによって1960年代に設計された建築である。

煉瓦造りの教会は駅のそばの白樺林の中に建っている。教会というよりは地域の集会場のような雰囲気である。壁から突き出た小さな十字架がかろうじてそこが教会だと教えてくれる。南北に配置された中庭を挟んで、西に平屋の事務所棟があり、東側にはL字形をした2階建の礼拝堂や市民のための学習室のある棟屋がある。

Markuskyrukan

礼拝堂建屋には連続する木製のヴォールトの庇があり、内部空間と中庭を緩やかにつなげる。木枠の建具を開けて中に入ると、中庭に面する廊下には、外の庇に呼応するように、コンクリートと素焼きの煉瓦でつくられたヴォールト天井がある。

壁の煉瓦や床の石は画一的な積み方ではなく、いたるところで遊びがあり、積み方の実験をしているようである。それはこの建築をつくった職人達の手仕事の痕跡を強く感じさせる。

ちょうど、教会で働く人たちがそのヴォールト天井の廊下で、外を見ながら朝のフィーカ(お茶の時間)を楽しんでいた。廊下とはいっても気持ちの良い空間である。夏の終わりの少し肌寒い午前中に、僕等もコーヒーをご馳走になる。

2階へ上がる階段の踊り場に大きな窓がある。暗い廊下を通って、白樺の梢と空が見える窓に向かって階段を上がるとき、自然と光を意識することになる。光に向かって階段を上がって行くのである。

礼拝に訪れた人たちは、庇、エントランスホール、ホワイエと徐々に光が絞られていくのを感じる。そして、礼拝堂に入るとしばらくはほとんど何も見えない。祭壇の右側から射し込む光と左奥のスリットからのほんのりとした光だけが闇の中に浮かぶ。

時間の経過とともに目が慣れてきて、椅子や祭壇が見えてくる。床の黒いライムストーン、壁の煉瓦の上に塗られた厚いモルタルに光の陰影が刻まれて、光を生々しく感じさせる。

額縁のない窓はレベレンツの設計の特徴である。ガラスは直接レンガに取り付けられている。光だけがそのガラスを透ってくる。礼拝堂から外を見ると緑色の白樺の林が見えた。冬の光はどんな感じなのだろう。雪景色の中の白い世界を想像した。

ここはキリスト教の教会ではあるが、ヨーロッパの中世の教会で感じるような異教徒であるがゆえの疎外感は感じない。純粋に光をデザインしたこの近代の空間は、原初的で土着な雰囲気を持っていて、誰にとっても神聖な空間であり得ると思った。

この教会を訪ねて建築に没頭していた学生時代を思い出した。写真家の下村純一さんの授業で、近代建築のスライドをただひたすらに見て、建築に夢中になっていたころの記憶が甦ってきた。いつかはこのような場所をつくってみたいものである。

文/写真・清水徹
2013.10.12